発達性協調運動障害 トレーニングと配慮と工夫
前記事の続きです。
今回は発達性協調運動障害(DCD)にどう対応していくかについて考えたいと思います。
うちの子供たちは今まで作業療法やグループ療育、通級指導教室を通じてさまざまなトレーニングを受けてきましたが、主に運動障害に対して行ってきたものを目的別に分けて考えてみました。
・感覚鈍磨に対する刺激を入れる運動
・バランスなど体幹筋肉を鍛える運動
・脱力のためのリラックス
・なわとび、鉄棒など具体的な運動のやり方指導と工夫
・楽器演奏など手先の微細運動に関わるやり方指導と工夫
刺激を入れる、体幹筋肉を鍛える、リラックスは続けていてもこれといって何かが目に見えて出来るようになるものではないですが、苦手を補うための体の基礎を作るものです。
特にADHDの多動児の場合、筋肉の使い方や感覚にもアンバランスがあるため、そのバランスを整えることで落ち着いたり日常の困難を軽減することにも繋がります。
お子さんが楽しく取り組める、気持ちよく取り組めるものを継続することが大切なのだと思います。
運動や手先を使うものも、教え方や練習のやり方次第ではすんなり出来るようになることも多くありました。
具体的に出来ないことに取り組むには、お子さん自身がそのことに対して自信を失っていることもあると思います。スモールステップで自信をつけながら進めて行くことが大切です。
私は専門家ではないので今まで受けてきた指導から、ご家庭でも取り組めるような形でご紹介したいと思います。
不足する刺激を入れる
ADHDのうちの娘には前庭感覚と固有感覚に鈍磨があります。
前庭感覚とは主に重力に関係する感覚でそれが鈍いとくるくる回ったりジャンプしたり重力に逆らう動きを過剰に好み、目も回りません。逆に前庭感覚が過敏の場合はブランコなどを嫌がったりするそうです。
固有感覚とは関節や筋肉の動きに対する感覚で、鈍さがあるために強く噛む、激しく動くなどを好み、力加減の調節が難しくなります。
娘の多動の原因の一つになっているようです。
この記事に娘が作業療法で受けた日本感覚インベントリー(JSI-R)の結果について書いています。
聴覚など感覚過敏があればその刺激を避けようとするのと同じように、感覚の鈍磨があれば不足する刺激を入れるために体を動かすのです。刺激が過剰なのも不足なのも本人にとっては不快な状態になってしまいます。
作業療法では広いスペースで大型遊具を使い思いっきり体を動かして不足する刺激を入れる時間を毎回とってくださっています。ブランコやトランポリン、バランスボールなどの遊具を使っています。
安全を確保できれば、これらの刺激を入れる運動はブランコや滑り台のある公園でも出来ます。
家では寝室は自由に暴れてよいスペースとしてあり、トランポリン代わりに跳ね回っています。安全確保のためにベッドはスプリングのみで高さがないため落ちても大きな怪我はありません。
家の中でも体を動かすための安全なスペースを確保することと(うちは狭いので寝室ですが)暴れてよいところ、暴れるときのルールをきちんと決めておくことで多動児もそれ以外の家族も快適に過ごすことが出来ます。
バランスボールは大型のものだと目を離すと危険なために家では小さいものを使っています。こちらの記事に小さいバランスボールの使い方を書いています。
固有感覚に関しては強い刺激を好むので爪や服や鉛筆に激しい噛み癖がありました。
爪噛みに関してはあまりに激しく自傷に近くなったので防止するためのマニキュアを使いました。これは幼児用のおもちゃにも使われる口に入れると強烈に苦い味がするものです。
しかし足らない刺激を求めているわけですから爪噛みが治まってもまた別の行動が出てきます。噛んでもいいものを与えていくほうが本人にとっても楽なのです。
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首から提げていつでも噛むことが出来ます。なぜかうちの子はシリコン部分を噛み切ったあとに紐を噛むようになりました。噛み心地も人によって好みがあるようです。息子はシリコンの噛み心地が気に入ったようですが、最近カミカミグッズとして娘が気に入っているのが出汁昆布です。食べられる上に硬さが娘にはちょうどよいようです。体にもよさそうですし好きなだけ食べられるように置いています。
出汁昆布のおかげで最近では鉛筆も爪も噛まなくなってきました。カミカミグッズは市販品も多くあるのでお子さんに合った噛み心地を探してみるとよいかと思います。
体幹筋肉を鍛える・バランスを整える
体幹筋肉を鍛えるためにはゆっくりとした動きがよいようですが、なんせADHDで脳内多動もありゆっくりとした動きが苦手。遊びを取り入れながら楽しく取り組む課題をやっていました。
<壁タッチ>
壁際に置かれた30センチ四方ほどのマットの上に立ち、ぎりぎり届くかどうかのところ(上や横)にシールを張ってタッチしていきます。ルールはジャンプをしないこと、片足立ちでもOK。おうちでやるなら点数や絵を書いた付箋でやってもよいでしょう。ジャンプが出来ないのでゆっくり体を伸ばすことができます。
<輪投げキャッチ>
マットの上で投げた輪を右手左手右足左足両手身体と指示された場所でキャッチしていきます。ルールはマットからはみ出さないようにするだけ。
このように新聞紙で作ったものでもOK!
足でもバランスをとりながら楽しくキャッチ
<輪投げ>
30センチ四方の小さいマットの上で、同じく輪投げを使いますが輪のほうをもち、的を色んな方向へ持って移動します。斜め後ろなどギリギリのところを狙って投げずに入れていきます。これは輪投げではなく人がギリギリのところに手をだしてタッチするでもよいです。上、下、前、後ろ、斜めなど色んな角度に手をだし順番にタッチ。足場は動かしません。
その他、小さいお子さんでしたら広げたタオルにボールを載せ、二人で落とさないようゆっくり運ぶなども療育でやっていました。
家ではお茶や汁物などをこぼさないようゆっくり運ぶお手伝いもよいです。
こちらには家庭で取り組める運動遊びや感覚遊びがたくさん載っています。グループ療育でも似たようなことをやっていました。取り組み方やお子さんの対応方法まで丁寧に書かれています。
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脱力・リラックス
筋肉や感覚のアンバランスから一部に負荷が集中し力をうまく配分できないために疲れやすかったり、うまくリラックスが出来ないことがあります。多動児によいといわれたリラックス体操(マッサージ)を行っています。
こちらの記事に動画で紹介しています。
このマッサージを行うととてもいい表情になり落ち着くようで、入眠前によくせがまれています。ここまできっちりしなくても気持ちいいようです。慣れるとうまく脱力出来るようになります。
具体的な運動のやり方指導と工夫
運動は基礎が出来ていれば指導の方法次第で出来るケースは多いようです。
うちも息子が療育で近寄ることも出来なかった鉄棒をマスターしました。娘も通級指導教室でなわとびや卓球、バトミントンなどの指導を受けて上達しました。
スモールステップで手順を出来るだけ細分化し、ひとつひとつ進めることで自信をつけていくことが大切です。こちらに息子の鉄棒の取り組みを書いています。
なわとびは布製の少し重いものを使うと回しやすいです。真ん中にトイレットペーパーの芯で重りをつけても回しやすくなります。ジャンプの練習、片手になわとびを持って横で回しながら飛ぶ練習と少しずつ進めていくとよいでしょう。
もち手の長い縄跳びも飛びやすいようです。
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ドラえもん学習シリーズにも体育があり漫画で楽しくコツを学ぶことができます。
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微細運動・手先のトレーニング
手先は折り紙、切ったり貼ったりお絵かきしたり幼稚園などでやる遊びもトレーニングになりますが、最初はそれがなかなか難しい場合もあります。
こちらの本は箸やストローの飲み方、ボタンのはめかた、服の着方、鉛筆の持ち方、ジャンプやスキップなど運動まで生活動作の教え方を一通り学ぶことが出来ます。
発達が気になる子への生活動作の教え方―苦手が「できる」にかわる!
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作業療法で教えていただいた鉛筆の持ち方トレーニングはこちらの記事に書いています。
こちらの本には図解でお子さんが自分で見てもわかりやすく蝶結びのやりかたや箸の使い方、雑巾の絞り方など生活動作が学べます。
小学校に入ってからは書字に困難が出てくる場合があります。
書字障害を含む学習障害の工夫はこちらの記事に書きました。
音楽の授業での楽器演奏。鍵盤ハーモニカやリコーダーでは苦労する場合も。
娘は通級指導教室で楽器演奏を個別指導してもらいましたが、リコーダーはうおのめパッドを張ったり、穴の周りに透明マニキュアで土手を作って穴を押さえやすくすると吹きやすくなります。
こちらに詳しく載っていました。
ドラえもん学習シリーズには音楽も揃っています。
ドラえもんの音楽おもしろ攻略 リコーダーがふける (ドラえもんの学習シリーズ)
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投薬治療の効果
先日ツイッターで発達性協調運動障害のことをつぶやいていたら発達障害にお詳しい小児科医の高橋先生からこのようなことを教えていただきました。大変興味深いお話だったのでツイートを引用させていただきます。
@Nanaio627 @dicegeist 最近のレビューではADHDとDCDのオーバーラップが約50%(アブストラクトだけなので、ADHDに占めるDCDなのか、その逆なのか、両方なのかは不明ですが)となっていますね。http://t.co/TxK0JKsv2V …
— 高橋和俊 (@sgy01121) 2015年10月18日
@Nanaio627 @dicegeist こちらは明確にDCDとは言っていないですが、ADHDの半数以上に粗大運動と微細運動の困難があるとしています。薬物療法による運動機能の改善率は28%から67%とばらつきがあるようです。http://t.co/bvmOjeCYAv …
— 高橋和俊 (@sgy01121) 2015年10月18日
@Nanaio627 DCDの治療薬はないので、コンサータやストラテラ(欧米だとアンフェタミン製剤も)のことだと思います。
— 高橋和俊 (@sgy01121) 2015年10月18日
@Nanaio627 そこが実はわからないところで、ADHDへの効果を通してDCDが改善しているのか、ADHDとDCDが背景に共通のメカニズムを持っていて、治療薬がそこに働いているために両方が改善しているのか、不明なんです。
— 高橋和俊 (@sgy01121) 2015年10月18日
なんとコンサータやストラテラなどADHD治療薬が発達性協調運動障害の改善に効果がある場合があるそうです。娘も6歳からコンサータを飲んでいますがよく考えてみればそのあたりから骨折など大きな怪我がなくなったのは投薬の効果もあったのかもしれません。
高橋先生もブログを書かれていらっしゃって専門的な目線で書かれたお話からいつも勉強させていただいています。
発達性協調運動障害への配慮
この障害で学校や日常生活で困ることも多くありますが、一番問題になるのは出来ないことで自分をダメだと自己嫌悪に陥ってしまうことではないでしょうか。
ただ闇雲にたくさん書けば書けるようになる、いっぱい練習すれば出来るようになると強要する事が一番最悪の事態になりかねません。嫌悪感を募らせ自信を喪失するだけです。
お子さんに合ったやり方、練習方法を見つけることが大切です。
自分が苦もなく出来たことは「なんで出来ないの?」とつい思ってしまいがちですが、生まれつきの障害なのでなんで出来ないのか本人にも当然わからないのです。難しいんだね、少しずつやっていこうと共感を交えて寄り添っていければいいなあと思います。
スモールステップなど適切な支援があれば出来るようになる体験を積むことで自信を回復したり、出来なくても無理強いされず工夫でやっていけることを知るのが大切だと思います。
リコーダーがふけなくてもなわとびが飛べなくてもスキップできなくても正直言って大人になって困ることはほぼありません。
私は人の名前が覚えられないし、とっさに右左がわからない左右盲ですが自分なりの工夫でそんなに困らず生きています。
他で代用できるものもたくさんあります。書字が苦手ならパソコンやタブレットやスマホ、書き写しが困難ならデジカメ、紐結びが苦手なら結ばなくていい靴紐やマジックテープの靴、料理をするにも調理器具だって色々便利なものがあります。
来年度から障害者差別解消法に基づく合理的配慮の義務化が始まりますので、学校にもサポートのための道具を持ち込むこと、そのことを周りに理解していただくことも可能になってくるでしょう。
大人になってそんなに困らずに生きていくことが出来れば、他はたいした問題ではないと構えることが大切なのかもしれません。どうしてもこれが出来ないと!とこだわると本人を追い詰めることになりかねません。
運動面でのトレーニングや感覚の問題は発達障害の困難全体を緩和する可能性があるので、楽しくやれる範囲で続けていければいいなぁと思います。
作業療法で聞いたのが、中高生になって部活などで運動をする場合、運動障害があると筋肉の使い方が違うことからどうしても怪我をしやすくなるので、練習量の調整などの配慮が必要だとのことです。
診断書に記載していただくことも可能だそうで、配慮が必要になった時に書いてもらおうと思っています。
個人的には6年生になったら運動会の組体操があるので、診断書をもらって組体操からはずしてもらうつもりでいます。近年組体操の巨大化により大きな怪我が続々と報告されています。中には一生障害として残るような怪我も少なくありません。元々運動障害があれば怪我もしやすいですし全体に影響があることです。練習に参加できないなど子供は辛いかもしれませんが、一時のことですので本人にも周りにも理解を求めようと思っています。
多くの運動の苦手さや不器用さをもったお子さんが、配慮や工夫によって出来ることを増やしたり、困難を軽減し自信を持って育っていかれることを祈っています。
苦手なことがあってもいい、そのぶん好きなこと得意なことをがんばれば自信にきっと繋がると思っています。
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